カウンセリングとは

 カウンセリングとは、専門家との対話を通じて相談者の困りごとを解決し、自己変容につなげていくプロセスです。カウンセリングは、臨床心理学領域において発展した技法でありますが、医療とも関係が深い分野であり、精神科医療においては薬物療法とともによく用いられる治療法であります。

図1:カウンセリングの分類

1は広義のカウンセリングであり、社会、経済、法律など、それぞれの分野の専門家が相談者の相談に乗る。
2は心理カウンセリングであり、1の中でもより精神心理的側面の強い相談援助になる。
3は心理療法であり、相談者の病的側面に焦点を当ててアプローチしていく。

 世間一般に「カウンセリング」と表現した場合、上記図の1の概念が当てはまり、心理学的背景というよりは、各分野の専門家の知識を背景とした相談業務が中心となります。円の中心にいくほど臨床心理学の要素が強くなり、カウンセリングのプロとしての技量が求められます。心理療法はより医学的モデルによる要素が強く、標的となる症状や状態あるいは解決したい問題などに対しての改善や解決を目的として行われることが一般的です。心理療法には上記図以外にもさまざまな技法がありますが、近年は相談者の状態・状況に合わせて最適なアプローチを選択する「統合折衷型アプローチ」と呼ばれる技法も普及しています。当院のカウンセリングは、3の心理療法が中心でありまして、国家資格である公認心理師を持つカウンセラーが担当いたします。

当院の心理療法

認知行動療法

  • 認知行動療法とは、幅広い精神衛生上の問題に対して、患者さんの「とらわれ」や「思い込み」に焦点を当てて、より現実に即した考え方にするように促す対話型の心理療法です。
  • 認知とは「物事に対するとっさの見方や考え方」「問題に直面したとき位に瞬間的に浮かぶ考えやイメージ」とも表現され、脳での情報処理プロセスを指します。この認知が気分や行動に影響を与えると考えられており、否定的な、「認知→気分→行動」の悪循環が続くとうつ病をはじめとした精神疾患の発症や持続に繋がると考えられています。
  • 私たちは、自身が置かれている状況を絶えず主観的に判断し続けています。これは、通常は柔軟に行われているのですが、強いストレス下やうつ状態時などはそうした認知に歪みが生じます。その結果、抑うつ感や不安感が強まり、非適応的な行動が強まり、さらに認知の歪みが引き起こされるようになります。
  • 認知行動療法では否定的な認知→気分→行動の悪循環から抜け出すために、柔軟な考え方や心のストレスを軽くする行動ができるように治療者との対話を重ねて修正を図っていく治療となります。
  • 考え方にアプローチすることで、結果的に精神的な症状や苦痛を和らげることを目的としています。
  • 認知行動療法では、自動思考に焦点を当てます。これは、気持ちが大きく動揺したり辛くなったりした時に患者さんの頭に浮かぶ考えです。それがどの程度、現実と食い違っているかを検証し、思考のバランスをとります。
  • 英語ではCognitive Behavioral Therapyであることから、略してCBTと呼ばれています。
  • うつ病、強迫性障害、社交不安障害、心的外傷後ストレス障害、神経性過食症などに適応があります。
  • 中等症以上のうつ病の患者さんにたいしてのCBTは、薬物療法とほぼ同等の効果を有することが報告されています(1)。
  • さらに、薬物療法とCBTを併用することで改善率は上がり、薬物療法単独よりも中断率を引き下げることと言われています(1)。
  1. Cuijpers P, Noma H, Karyotaki E, Vinkers CH, Cipriani A, Furukawa TA. A network meta-analysis of the ef fects ofpsychotherapies, pharmacotherapies and their combination in the treatment of adult depression. World Psychiatry.2020;19:92-107.

来談者中心療法

  • 1940年代にアメリカのカールロジャースが提案した心理療法の技法です。
  • 来談者中心療法では、カウンセラーは「こうしたほうがいい」という指示や助言はせず、その人の考えている世界を語るままに耳を傾けて受け止め、それを伝え返します。
  • ロジャース自身の経験から、「カウンセラーの考えの押しつけや強圧的な態度では一時的な効果しか望めない」という考えに至り、「相手に成長が生じるような非指示的な治療」という位置づけでこの心理療法が提案されました。
  • 当院でも傾聴を中心に支持的にかかわらせていただいております。

箱庭療法

  • 当院の箱庭療法の対象は成人のみとなります
  • 箱庭療法は遊戯療法の一つで、非言語的心理療法となります。
  • 元々は言語表現が未熟なお子さんを対象とした心理療法でありましたが、現在では大人の方にも実施されています。
  • 遊戯療法とは、主に子供を対象として、遊びを通じて行う心理療法です。
  • 心理療法は、認知行動療法のような言語的かかわりがメインになりますが、多くのストレスを抱えてしまうとそれをうまく言葉にして表現することが難しくなります。そこで、非言語的コミュニケーションである遊戯療法が用いられることがあります。
  • ただ、遊びを単に「言葉の代わり」として位置づけるのではなく、言葉では表現し尽くせない深い感情や複雑な問題状況を表現することができると考えられており、言語的な心理療法よりも優れている部分もあります。
  • 箱庭療法では、砂の入った木箱と種々の置き物が用意されていまして、患者さんは砂の上に自由にそれらを並べるなどして自身のイメージを表現します。
  • 言語表現を必要としないため、言葉で言い表せないようなもやもややストレスなど、その人の内界を見ることに適しています。
  • また、「箱」という守りがあります。元々、カウンセリングでは「面接室」という守りがあり、患者さんは安心してお話をすることができます。箱庭療法ではさらに「箱」も加わるため、二重の守りが提供され、より安心して表現をすることができます。
  • 箱庭作品に対して、カウンセラーは解釈を患者さんに伝えることはせず、見守り、味わうことを中心にかかわっていきます。共感的に接することで、患者さんは言葉による説明がなくてもカウンセラーにわかってもらえるという安心感を得ることができます。
  • これを続けていくうちに、無意識の自律性が働き、箱庭作品が次々と展開していき、患者さんの意識が変わっていきます。

臨床動作法

  • 臨床動作法とは、成瀬悟策によって考案された「動作」に焦点をあてた心理療法となります。動作療法とも言います。
  • 1960年代に考案され、心理学的発想をベースとしながらも、元々は身体の不自由な方に対しての動作改善目的に用いられていました。
  • 「動作の仕方を変えることを通して、それと一体的なこころの治療的変化を目指す心理療法(成瀬,2014)」としています。
  • 「心の活動と身体機能とは一体一元の現象であり、いずれか一方が変われば、他方も必ず一般的な変化をする(成瀬, 2007)」と仮定し、「からだの持ち主である主体者としての自己が、自分の体を能動的、現実的、客観的に制御する動作過程を通じて、より望ましい体験の仕方へと変えていく援助法(鶴, 1992)」とし、動作を通じて心の在り方に変化をもたらしていく心理療法です。
  • ここでいう「動作」とは、単なる身体運動のみを指すものではなく、運動に至るまでの予期イメージ(意図)、体への力の入れ具合(努力)も含めた一連のプロセスを指します。
  • 臨床動作法では、クライエントの物事の体験の仕方が、心身の不必要な緊張を生むとし、その体験の仕方を変容して心理的適応を図るために、動作課題を用いて働きかけていきます。実際の動作面接では、セラピストがクライエントの動作や姿勢に現れている緊張や不調に注目し、それに応じて肩上げ課題、腕の挙げ降ろし課題、踏みしめ課題などといった動作課題を設定し、動作課題に取り組む時のクライエントの意図、努力、身体運動の達成という一連の過程で生じる「体験」を重視します※。
  • 臨床動作法により、単なるリラックス効果以外にも自己を見つめ直して洞察を得るといったもう一歩進んだ心理的な効果も期待できます。

※上倉安代ら「臨床動作法体験による心理臨床初学者の成長支援の試み」駒澤大学心理臨床研究、2020、19号10-25