「お酒を減らしたいけど減らせない」という方に対して、アルコールに関する教育プログラムを提供させていただきます。
担当
- 医師:井上悟
- 多職種から構成されたチームによるプログラムを提供します。
減酒治療の現状
元々、飲酒習慣の乱れやアルコール依存症に関しては、日本では「断酒」が唯一の治療法でした。そのため、アルコールの悩みを抱える患者さんにとっては、断酒を受け入れるか否かの両極端な二択しかなく、「減酒」を希望する患者さんをどの医療機関もフォローすることができない状態でした。実際、アルコール依存症の患者さんは107万人程度存在すると言われていますが、そのうち治療を受けている方は5万人程度です。それも、この5万人の患者さんはほとんどが重症者であり、重症に至る過程の軽症から中等症の患者さんの受け皿が乏しかったという現実があります。そこで、近年「減酒」という選択肢が注目され、アルコール専門機関を中心に減酒外来が開始され、世間に認知され始めています。
減酒外来はヨーロッパでは古くより行われてきました。日本でも1980年代より、依存症の手前の段階で医療が介入するブリーフ・インターベンションと呼ばれる短時間の行動カウンセリングの有効性が実証されており減酒外来の姿勢の基礎となっています。2018年に発表された「新アルコール・薬物使⽤障害の診断治療ガイドライン」では、断酒を第一の治療としつつも、「飲酒量低減を⽬標として、うまくいかなければ断酒に切り替える⽅法もある」として、減酒という選択肢が推奨事項に盛り込まれています。さらに、2019年に日本初の減酒薬(飲酒量低減薬)であるナルメフェン(商品名セリンクロ)が発売され、減酒治療を後押ししました。薬剤と心理社会的治療と組み合わせることで減酒効果が実証されております。
減酒の対象となる方は上記図のようになっております。アルコール使用障害の重度の方は断酒を第一目標としますが、場合によっては減酒を一時的な目標とすることも可能です。アルコール依存症未満の方は減酒を治療の最終目標とすることも可能となっています。この「減酒」を治療目標とすることができるという点がこれまでのアルコール治療と異なる点です。減酒を治療目標とすることでより幅広い層の患者さんにアプローチでき、患者さんにとっての治療の負担も軽くなります。また、重度の依存症にさせないことも治療目標になりえます。
こうした背景をもとに、当院でも減酒支援外来として患者さんをサポートしていきたいと思っております。
アルコールの弊害
- アルコールによる様々な弊害は至る所で耳にするかと思います。
- アルコールにより高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の罹患リスクが上がるだけでなく、食道がんなどの悪性疾患やうつ病などの精神疾患の罹患率も上がります。
- 健康日本21という厚生労働省が推進する国民健康づくり運動によりますと、生活習慣病のリスクを高める飲酒量は、1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上とされています。また、適切な飲酒量は20g以下とされています。
- 純アルコール量=飲酒量(ml) x アルコール度数(%)÷100 x アルコール比重0.8
- 例えば、ビール500mlのアルコール量は=500ml x 5/100 x 0.8=20gとなります。
- 厚生労働省の令和1年(2019)「国民健康・栄養調査」によると、生活習慣病のリスクを高める飲酒をしている割合は、男性14.9%、女性9.1%になります。
ナルメフェン(商品名:セリンクロ)
- 2019年3月に発売された日本で初めての飲酒量低減薬です。
- ナルメフェン以前は3種類のアルコール依存症治療薬が存在しましたが、いずれも断酒維持薬という位置づけでした。
- ナルメフェンは脳内に作用して飲酒欲求を低減させます。
一般名 | 商品名 | 効果 | 目的 |
---|---|---|---|
ジスルフィラム | ノックビン | 飲酒をすると気持ち悪くなります。それにより「心理的に」飲酒をしたくなくなります。嫌悪療法の一つです。 | 断酒 |
シアナミド | シアナマイド | ||
アカンプロサート | レグテクト | NMDA受容体を介する神経伝達を阻害することで飲酒欲求そのものを低減します。 | |
ナメルフェン | セリンクロ | オピオイドμ・δ受容体を阻害、κ受容体を部分作動させ、飲酒時の飲酒欲求を低減させます。 | 減酒 |
- ジスルフィラムとシアナミドに関しては飲酒欲求の低減効果はありません。「心理的に」断酒を促します。アカンプロサートは飲酒欲求を低減し、断酒時の内服により断酒率が上がるとされていますが、飲酒量を少なくする効果はないとされています。
- 当院の外来ではナルメフェンを使用し、生活指導と合わせて減酒へつなげていきたいと考えています。
減酒支援外来の対象となる方
- 減酒の意志のある方
- 重度のアルコール依存症の方は断酒治療が望ましいため、当院での対応は難しいです。アルコール摂取量が1日60g以下の方を中心に対応させていただいております。
- お酒の習慣が気になっている方
- 身体のことが心配なのでお酒の飲み方を見直したい方
- 二日酔いで仕事に影響があるので何とかしたい方
- お酒で失敗しないようにしたい方
- 休肝日を作れない方
- 健康診断でいつもお酒を減らすように言われている方
減酒支援外来の内容
- 多職種から構成されたチームによる減酒プログラムを提供させていただきます。
- 月1回、全9回のプログラムとなります。
- 減酒目標の設定、飲酒状況の記録、定期的な外来受診と報告、定期的なアドバイスなどを行っていく認知行動療法的なかかわりとなります。
- 私たちは、減酒支援外来を「予備校」のような存在と考えております。人によって目標は異なりますが、減酒に必要な心理教育、栄養指導等を通じて皆さんの減酒目標を応援していきたいと思っております。