WAIS-Ⅳ

  • WAIS-Ⅳはウェクスラー式知能検査の一つで、全般的な知的能力を測定する目的で世界中で使用されています。「全体的」と言いましたが、知能を構成する全ての能力を測定しているわけではないので(例えば、熱意、衝動性、固執の程度など)、認知的知能を中心とした指標であることを意識しておかなければいけません。
  • ウェクスラー式知能検査は年齢によってテストの内容が異なります。WAIS-Ⅳは16歳から90歳まで、WISCは5歳から16歳まで、WPPSIは2歳から7歳までが対象となります。
全検査IQ(FSIQ)
構成要素言語理解(VCI)知覚推理(PRI)ワーキングメモリー(WMI)処理速度(PSI)
基本検査類似
単語
知識
積み木模様
行列推理
パズル
数唱
算数
記号探し
符号
補助検査理解バランス
絵の完成
語音整理絵の抹消
表:WAIS-Ⅳの構成内容
  • 言語理解指標は、言語による理解力や推理力を測定します。
  • 知覚推理指標では、視覚的な情報を推理する力を測定します。目から入った情報の処理能力です。地図や設計図の読み取りが得意な方はこの指標が高得点になります。
  • ワーキングメモリー指標は複数の情報を処理したり、順序良く処理する力を測定します。料理や読書に関係します。
  • 処理速度指標は物事の処理速度を測定します。単純な事務処理が得意な人は高得点になります。
  • よく「発達障害の検査をしてほしい」として本検査をご要望される方がいますが、WAIS-Ⅳは全般的な知能を測定する検査であり、発達障害の鑑別はできません。ただ、各能力に偏りがある場合は生きづらさにつながっている可能性があり、自分の能力の特徴を理解することは生きづらさを見直す一つのきっかけになるとも言えます。
得点評価存在割合
130以上非常に高い2.5%
120~129高い7.2%
110~119平均の上16.6%
90~109平均49.5%
80~89平均の下15.6%
70~79低い6.5%
69以下非常に低い2.1%
表:WAIS-4の得点と存在割合

田中ビネーⅤ

  • 2歳から成人を対象としています。当院では、療育手帳のA、Bの1など、IQ50以下の方の状態を調べるために使用しています。
  • 個人面接法です。そのため、WAIS-Ⅳのように大人数を一斉検査することはできません。
  • フランスのビネーが開発した検査を日本語に訳した検査です。ただ翻訳しただけでなく、日本人の生活様式やパーソナリティに即した内容となっています。
  • 1905年に発表されたビネーテストの問題は30問から構成されていましたが、その時点では採点基準は不明確でした。その後徐々に改訂され、1908年には問題数が59問になり、3歳から13歳までの各年齢に3問以上の問題が割り当てられました。そして、該当年齢者が60%~85%で通過できる問題が配置され、その通過の可否によって「精神年齢」という概念で評価しました。例えば、「この子は5歳だけの4歳級の問題しか解けなかった」となると精神年齢は4歳になるわけです。
  • 日本では1943年に開発され、2003年に第5版が刊行され、現在に至ります。日本では「田中ビネー」「鈴木ビネー」が用いられています。鈴木ビネーが90問であるのに対し、田中ビネーは120問と問題数が多くなっている。
  • 各課題に関して年齢尺度が設けられており、同世代の子供と比較してどうなのかを判断することができます。
  • 各年齢で50%~70%が通過できる問題が作られており、通貨できたらその年齢に達していると判定されます。
  • 特徴としては、言葉をあまり使わずに、身振り手振りで問題を教示し、子供の動作で知能を判定します。そのため、言語発達が未熟な子でも評価が可能です。
  • 所要時間も30分から1時間程度と、知能全般を測定する検査としては短くなっています。
  • 上述のように1947年から存在する検査であるため実施できる施設は多数に上ります。
  • 田中ビネーⅤは生活年齢に対する精神年齢・発達年齢の割合でIQを算出します(比率IQ)。ウェクスラー式知能検査では個々の成績を同年齢の子どもの集団の基準に照らし、集団における相対的な位置で知的水準を表します(偏差IQ)。
  • 療育手帳判定の際に最もよく使用されている知能検査です。「療育手帳判定における知能検査・発達検査に関する調査」(吉村拓馬ら、2019)では、51%の自治体が本検査を使用していると発表しました。
  • 対象者が2歳~13歳の場合、精神年齢(MA)および知能指数(IQ)で表されます。
  • 14歳以上の場合は偏差知能指数であらわされます。

Vineland‐Ⅱ適応行動尺度

  • 適応行動能力を評価する検査です。
  • 0歳から92歳まで使用できます。
  • 検査時間は20分から60分です。が、半構造化面接の形態をとるため、より長い面接時間になることがあります。
  • 回答は基本的には患者さん本人ではなく保護者など、その患者さんをよく知る人となります。
  • Vineland-II では,適応行動は 「個人的、また社会的充足に必要な日常活動の能力」と定義しています。
  • どのような行動ならばなんとかできるのか、どのようなことならばできないのかをあぶりだすことで、適切な支援につなげます。
適応行動評価不適応行動
領域コミュニケーション日常生活スキル社会性運動スキル
下位領域受容言語
表出言語
読み書き
身辺自立
家事
地域生活
対人関係
遊びと余暇
コーピングスキル
粗大運動
微細運動
内向性
外向性
その他
表:Vineland-IIの評価項目
  • 評価方法としては、適応行動と不適応行動に分けて対象者の行動を分析します。適応行動はさらに4つの領域に分けられます。不適応行動はマニュアル上はオプション検査ですが、実務運用上はほぼ全ての対象者の方に実施されています。
  • 採点結果は、平均100、標準偏差15で得られますので、ウェクスラー式と同様となっています。

レーヴン色彩マトリックス検査

  • レーヴン色彩マトリックス検査は視覚的課題を用いて推理能力を評価する検査であり、簡易知能検査として用いられています。
  • 当院では高齢者の方の検査に用いております。
  • 本検査には3つの種類がありますが、日本では5歳以上の児童と高齢者を対象としたRCPMが用いられています。他、SPMは普通の成人用、 APMは優秀な成人用となります。
  • 法則性のある図形が並んでいて、欠けた場所に何が入るかといった問題になります。言語を介さずに答えることができます。そのため、重度の失語症の方にも用いることができます。
  • 所要時間は10~15分です。短時間で終えることができるのでスクリーニングテストとして適しています。
  • 0~36点の範囲で評価します。

コース立方体組み合わせテスト

  • 立方体を使った非言語性の知能検査です。
  • 提示された図柄を見て、立方体を使用して17問の模様を作る検査です。
  • 当院では高齢者や聴覚障碍を持つ方の検査として使用しています。
  • 対象年齢は6歳以上です。
  • 発語障害のある方に適している検査です。一方で、図柄を見て手で組み立てますので、視覚障害や両上肢に障害のある方には不向きな試験です。
  • 軽度認知障害をスクリーニングする目的でも用いられたりします。

CAARS

  • コナーズ成人版ADHDスケールと言います。
  • 自己記入式の成人に対してのADHD検査になります。ADHDとは注意欠陥多動性障害のことを言いまして、忘れ物などの不注意症状や落ち着きがないといった多動性、衝動性といった特性を持つ発達障害の一種です。
  • ADHDの質問紙尺度としては欧米で最も多く用いられている検査です。
  • 精神疾患の診断基準集であるDSM-Ⅳに基づいた評価尺度になっています。最新の診断基準はDSM-Ⅴですので、やや古いところもありますが、ADHD症状を包括的に評価できるメリットがあります。
  • 不注意、衝動性、多動性の領域だけでなく、情緒不安定性、自己概念の障害についても評価が可能です。
  • ADHDの主要症状を問う質問に対して、0=全くない~3=ほとんどある、の中から回答して総得点を算出します。
  • 所要時間は15分から20分です。
  • カットオフ値は定められていませんが、T得点が65点以上をカットオフ値とすることが多いです。

A-ADHD

  • CAARSと同様に成人期のADHDを評価する検査です。
  • 自己記入式の検査です。
  • 質問に対して、「あまりない」「ときどき」「しばしば」「いつも」の4つの中から1つだけを選択します。
  • 実施時間は10~15分程度です。

AQ

  • AQとは、Autism(自閉症)Spectrum(連続体)Quotient(指数)の略で、自閉症スペクトラム指数と言います。
  • 「自閉症スペクトラム」という言葉は近年になって注目されてきました。コミュニケーションが苦手だとか興味の対象が限局しているといった特性を自閉症傾向と言います。自閉症スペクトラム、自閉性障害や高機能自閉症(アスペルガー症候群)そして健常者はそれぞれ独立したものではなく、量的な違いに留まるという概念です。感染症でいうと、麻疹と風疹のような関係ではなく、同じインフルエンザだけどその症状の程度が重いか軽いかの違いになるということです。
  • AQ は社会的スキル、注意の切り替え、細部への注意、コミュニケーション、想像力という 5 つの下位尺度から構成されています(Baron-Cohen et al., 2001)。
  • 質問は50個です。
  • 所要時間は10分から15分です。
  • 成人用は自記式質問紙、小児用は保護者が記入する方式です。
  • 回答は「あてはまる」から「あてはまらない」までの4段階となります。