軽度認知障害とは

  • 認知症の多くは徐々に認知機能の低下が見られますが、その際に、正常域とも認知症域とも言えない状態が存在します。このような状態を軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)と言います。
  • 特定の疾患を指す表現ではなく、患者さんの状態を指す言葉です。
  • 1995年頃にPetersenという研究者が提案した概念で、最近では日本でも一般に認知されるようになりました。
  • MCIから認知症へ移行する確率は年間16%程度です(1)。5年後には40%の方が認知症に移行すると言われています。
  • 明確な診断基準は定められていません。

MCIの症状

  • MCIは、記憶障害を認める健忘型と記憶障害のない非健忘型に分けられ、さらに、認知機能障害が一つの領域に留まるか(single domain)、複数の領域にまたがるか(multiple domain)に分けられます(2)。
健忘型single domain記憶障害があり、認知機能障害が一つの領域にとどまっている。
multiple domain記憶障害があり、認知機能障害の領域が複数の領域にわたっている。
非健忘型single domain記憶障害がなく、認知機能障害の領域が一つにとどまっている。
multiple domain記憶障害がなく、認知機能障害の領域が複数の領域にわたっている。
MCIの分類
  • 上記分類は何の役に立つかと言いますと、今後進行するかもしれない認知症の種類を予測することに役立ちます。アルツハイマー型認知症ですと、前駆状態としてのMCIであれば健忘型が最も多くなります。一方で、前頭側頭型認知症の場合は、非健忘型の遂行機能障害を中心としたMCIが出現しやすくなっております。レビー小体型認知症では、非健忘型の注意障害と視空間認知障害を発症しやすく、非健忘型multi domainを経ることが多いと言われています。
  • MMSEという認知症のスクリーニング検査において、27点以下であればMCIが疑われます。ただし、点数だけで決めることはできません。
  • もの忘れはあったとしても自覚があり、日常生活への影響は少ないです。
  • 日常生活動作は正常です。

検査

  • 保険適応の範囲内では、MCIに特異的な検査バッテリーはありません。通常の認知機能検査でスクリーニングして、必要に応じてさらに詳細な検査を組み合わせて評価していきます。
  • この段階から、SPECTという脳血流検査をすることで、アルツハイマー型認知症かレビー小体型認知症か前頭側頭型認知症かを鑑別できる可能性はあります。
  • 近年では、アルツハイマー型認知症主な原因とされておりますアミロイドβに関する採血検査をすることで、MCIのリスクを評価することができるようになっています。ただ、保険適応はなく自費診療となります。この検査は、アミロイドβの排出等に関わる9つのタンパク質を「栄養」「脂質代謝」「炎症・免疫」「凝固線溶」の4つのカテゴリーに分類し、血中量を測定することでMCIのリスクを評価します。検査結果としてA~Dの4段階で評価されます。

治療

  • MCIに対して有効性の確立された薬物療法はありません。しかし、海外では、MCIに対してドネペジル(アリセプトと言われる一般的な認知症のお薬です)を使用することで、認知症の発症を12か月遅らせることができたとの研究があります(3)。
  • ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(リバスタッチ)はドネペジルに比べると発症抑制効果は認められていません。
  • 緑黄色野菜の持つ抗酸化作用が認知症の発症リスクを低下させると言われています。
  • 魚についても、多価不飽和脂肪酸であるDHAの効果により認知症の発症を予防すると言われています。
  • 運動についても効果が報告されていまして、週3回以上の有酸素運動を行う人は認知症の発症率が低いことが言われています(4)。
  • 新聞や本を読む、楽器を演奏するなどの知的余暇活動をすることで認知症の発症率を下げることができると言われています。

参考文献

  1. Pertersen, R.C., Smith, G.E., Waring, S.C., et al. : Mild cognitive impairment. Clinical characterization and outcome. Arch Neurol, 56 ; 303-308, 1999
  2. Pertersen, R.C., Morris, J.C. : Mild cognitive impairment as a clinical entity and treatment target. Arch Neurol, 62 ; 1160-1163, 2005
  3. Pertesen, R.C., Thomas, R.G., Grundman, M., et al. : Vitamin E and donepezil for the treatment of mild cognitive impairment. N engl J Med, 352 ; 2379-2388
  4. Larson, E.B., Wang, L ,. Bowen, J.D., et al. : Exercise is associated with reduced risk for incident dementia among persons 65 years of age and older. Ann Intern Med, 144 ; 73-81, 2006